平成21年度 新宿区鍼灸師会 学術講習会の第1回講座

1.鍼灸治療施術時における医療グローブ装着の必要性と普及について

 新宿区鍼灸師会では、平成20年度より、日本鍼灸師会や全日本鍼灸学会、東洋療法学校協会など、鍼灸治療 に関る諸団体で構成された鍼灸安全性委員会で作成された『鍼灸医療安全ガイドライン』(医師薬出版株式会社、2007年)を受けて、一般の鍼灸師が実際の 鍼灸治療の現場で、より安全で確かな施術を行うための必要な要件を模索してきました。
 そこで、既に10年以上にわたる無料鍼灸体験治療での指サック装着の実績を受け、より安全で使用しやすいグローブ装着を標準化する準備を始めました。
 新宿鍼灸師会の会員でもある呉竹学園東洋医学臨床研究所所長の古屋英治先生のご協力・ご指導なども得て、平成21年度より新宿区鍼灸師会全体での施術時に おける医療グローブ(ゴムやラテックスなどのアレルギーを引き起こさないニトリル製のグローブを推奨しています)装着の普及を目指して活動することを決定 しました。
 これにより、平成21年度第1回の公開講座で、古屋英治先生に「鍼灸安全ガイドライン-医療グローブの必要性」という、グローブ装着に関する最初の講演 を行っていただきました。今後とも、公益活動(無料体験コーナー、マラソンボランティアなど)における施術時のグローブ装着、講演の実施、HP上の啓蒙記 事、冊子の配布などを通じて医療グローブ装着の必要性を訴え、普及活動を行なっていく予定です。
 グローブ装着や鍼灸師の衛生ガイドラインについてのご意見やご要望、情報のご提供をお願い申し上げます。

次に古屋先生に行っていただいた講演の要旨を掲載いたします。今後はグローブの種類や価格などの情報も含め取り組んでいきたいと思います。

【講演の要約】

 我が国の医療関連職種はチーム医療による業務の補完を行い、より良い医療を目指している。医療の基本とし て各分野の専門性の研鑽とは別に、医療従事者を感染から守り、患者も感染から守る方法である標準予防法が実施されている。ここでは患者の血液、体液、分泌 物、排泄物、傷のある皮膚粘膜は感染性があるものとして取り扱い、感染経路を遮断する方法として「手洗いの励行、手袋・マスクの装着」を提唱している。


東洋医学臨床研究所所長
古屋英治先生

 鍼灸治療における諸操作を医療水準による感染防止対策とした鍼灸医療安全ガイドライン(鍼灸安全性委員会 編2007)が示され、刺鍼、抜鍼時の清潔操作の実践に向けた取り組みが行われている。鍼灸師が医療へ参入するとき、チームとして活動している医療従事者 と同レベルの標準予防策がとれるようにするものである。
 この背景には米国カリフォルニア州はり師試験で実施されているクリーンニードルテクニック(CNT)で示された、「鍼体に触らない」がある。我が国の伝 統的鍼治療では鍼の刺入・抜去に「押し手」が用いられているため、「鍼体に触らない」としたテクニックは日本の鍼治療の文化を絶やしてしまうかもしれない 重大事項である。「押し手」を存続させ、さらに標準予防策を実践して、鍼治療を医療水準として存続させる方法を検討しなければならない。
 鍼灸医療安全ガイドラインでは「指サック」の使用を説いていたが、これに代わる防止具が見つかればすぐにでも代替する方針に変わりはない。ここでは感染 防止対策のひとつとして、手袋(未減菌)を使用した標準予防策の実践を紹介する。防止具の条件は①感染リスクに応じて感染経路が遮断できる、②使用直前ま で汚染を受けない管理がされている、③水分を通過しない素材、④清潔で安全な製品を使用していることが患者に説明できる、⑤経済性、環境問題に適応してい る等が挙げられる。さらに目的に応じた手袋を選択し、単回で使用し、ポケットに入れて持ち歩かない等である。手袋は手洗いの代替ではないため、さらにピン ホールの可能性も考慮し、手袋の装着前、外した後は必ず手洗いを励行する。未減菌手袋も上手に装着すれば病原体が手袋につかず安全にしようできるため、使 用時まで汚染を受けない管理、着脱トレーニング、病原体を拡散しない破棄などが必要である。

 関連論文として、『「指サック押手」を考える』という座談会記事が『医道の日本』(2009年4月号)に掲載されています。古屋先生も参加されていますので、興味のある方は是非ご覧下さい。