古屋先生の鍼灸師の知っておきたいこと

【感染予防は手洗いから】

~平成24年11月14日新宿区鍼灸師会公開講座から~
呉竹学園東洋医学臨床研究所所長
医学博士 古屋英治

患者様に安心して鍼灸治療を受けていただくには、安全の確保が必要です。以前からリスクマネージメントとして種々の対策が実施されてきましたが、近 年ではリスクよりもセーフティーな医療を提供することが求められています。セーフティーの基本はなんと言っても感染予防です。医療は手洗いに始まり手洗い に終わるとも言われ、手洗いは医療従事者の共通した認識でもあります。本論では鍼治療に関連した感染予防について話をします。

1.感染予防策の経緯

 WHOが刊行した『鍼治療の基礎教育と安全性に関するガイドライン(1999)』第2節に鍼治療の安全性として感染防止として清潔な施術環境、清潔な手 指、施術野の準備、鍼及び器具の滅菌と管理、無菌的な手法が記載されています。その後米国疾病予防局(Centers of Disease Control Prevention: CDC)から院内感染対策の指標として『CDCガイドライン』が発表され、現在最も信頼されるガイドラインとして医療機関で実施されています。基本的な考 え方は「すべての患者の血液・体液・分泌物・排泄物・傷のある皮膚粘膜は感染性があるものとして取り扱い、患者と医療従事者の双方における危険性を減少さ せる予防策である。」としています。これを受けて日本鍼灸師会、全日本鍼灸マッサージ師会、東洋療法学校協会、全日本鍼灸学会が共同で設置した鍼灸治療に おける安全性ガイドライン委員会による『鍼灸治療における感染防止の指針(1992年)』、さらに日本理療科教員連盟を加えた鍼灸安全性委員会から「鍼灸 治療を医療水準に」を目的にした『鍼灸医療安全ガイドライン(2007年)』が刊行され、標準予防策の徹底が図られてきました。また2005年には薬事法 改正に伴い毫鍼のJIS規格化が行われ、毫鍼の単回使用(single use)による感染防止の基盤が整備されました。

2.鍼治療の伝統的操作法の危機

 我が国における伝統的操作法のひとつに『押手』があります。しかし感染防止の観点から見ると、少々問題を含んでいます。米国カリフォルニア州の鍼師試験 で採用されているクリーンニードルテクニックは滅菌した鍼をできるだけ清潔な状態で刺入するとしています。すなわち鍼体に触れる押手の使用を認めていない のです。しかし我が国で発達した押手は患者様と一体になる技術であり、折鍼等の刺鍼に伴うリスクを回避するうえでも大いに役立つ技術です。そこで伝統的操 作法を行いながら、そして患者様の感染リスクを少しでも軽減するための方策として、滅菌した指サックや手袋を使用することを推奨してきました。これらの使 用によっても刺入操作時の鍼の滅菌状態を維持することはできませんが、できる限り清潔操作を心がけ、さらに消毒を徹底することでリスクの軽減を図ります。  他方、刺鍼に伴う感染リスクは、術者側にも存在します。鍼の刺入抜去操作によって生じる組織損傷に伴う出血です。押手は術者の親指と人差し指で鍼体を挟 み、鍼の刺入抜去を行いますが、抜鍼時には鍼に付着した血液や体液に直接触れてしまいます。さらに後揉法は鍼を抜いた後の傷口に直接触れる行為です。指 サックや手袋の着用は患者様ばかりでなく施術者が曝される感染リスクを軽減する方策にもなります。これらを踏まえて感染予防の観点から鍼灸師を見ると、指 サックやグローブの着用を日常的に行っている鍼灸師は感染リスク対策に精通していると言えそうです。

3.病気予防にうがいと手洗い

 冬季はノロウイルス、インフルエンザウイルスといった感染症に注意が必要です。手についたウイルスが口や鼻から侵入します。これを防ぐには「うがいと手洗い」をお勧めします。外出から帰宅した、学校や会社に着いた、食事の前、掃除の後、トイレの後には念入りに行います。冬季だけでなく一年を通して習慣づけることが大切です。

(1)うがいの方法

 うがいは3回に分けて行います。うがい薬があればご使用下さい。ポビドンヨードがお勧めです。1回目は口の中に残った食べカスをすすぎます。2回目は上を向いて喉の奥まで届くように15秒程度うがいをします。3回目はもう一度喉の奥までうがいをします。

(2)手洗いの方法

手洗いは流水と石けんを使用する日常手洗いと手洗い消毒法や手術時手洗いといった衛生的手洗いに大別されます。鍼灸治療では原則として日常手洗いと擦式手指消毒法を組み合わせて行います。

1)日常手洗い
日常手洗いは石けんを良く泡立て、30秒以上かけて洗います。もちろん手洗いの前には爪を切る、時計や指輪を外す、傷口には適切な処置をして下さい。洗 い残しが多い部分は親指、指の付け根、爪です。特に念入りに洗って下さい。洗った後は乾いたタオル、できればペーパータオルで水分を拭きとります。手は乾 燥させましょう。水を止めるときはきれいになった手で触れることがないよう肘や使用したペーパータオルを使います。洗い残しの確認には手洗いチェッカーが 有効です。定期的にチェックをすると洗い残しがなくなることを実感できます。手洗いを十分に行うと、とてもサッパリします。

【手洗いの手順】
①両手を摺り合わせて洗う
②親指を手掌で包み込み、捻るように洗う
③指の間を洗う
④指先(爪)を洗う
⑤手首上部から手の甲を洗う
⑥流水ですすぐ
⑦ペーパータオルで水分を拭き取る

2)擦式手指消毒法
 擦式手指消毒法はプッシュ式のボトルから1プッシュ(3ml)を手に取り、乾くまで良くすり込みます。方法は手洗いと同様です。気を付けていただきたいのは「擦式手指消毒法をしているから手洗いはしないで良い」と勘違いをしてしまうことです。基本は流水と石けんを使用した手洗いです。くれぐれも間違えな いようにして下さい。

(3)マスクの着用

 咳やくしゃみが出るときはマスクの着用をお勧めします。予防的な効果には賛否両論があるようですが、不織布で作られたものは繊維の目が細かくウイルスも 通しにくいようです。マスク着用のポイントは鼻、頬、顎に密着させることです。プリーツを広げて密着させて下さい。マスクは1日1枚で使い捨てが原則です。